推理小説みたいな保立道久『歴史のなかの大地動乱』   

大船渡往復の長い車中、実際はほとんど寝ていたのですが、それでも1冊だけ重たくない本を持って行きました。それが上記の岩波新書『歴史のなかの大地動乱』。これは東日本大震災から1年半も経っていない2012年8月初版です。当時歴史学界ではいっせいに「震災・災害の歴史」をとりあげ、雑誌でも特集を組んでいました。そのとき注目したはずなのですが、失礼ながらたくさんの「災害史」のなかの1冊で、それも著者の専門分野である古代史の話だと思っていたような気がします。

   このあさはかな認識を改めるきっかけは、保立さんのブログを読むようになり、彼がなぜ古代史のなかの地震や噴火・津波の記録に注目するのかが、少し理解できるようになったからですが、決定的だったのは、東日本大震災から5年以上も経った今年4月に起こった熊本地震でした。保立さんは5月7日付のブログで、わたしなんぞメじゃないくらい長い論文を書き、「拙著『歴史のなかの大地動乱』(岩波新書)で述べたように、九世紀、八六九年(貞観一一)、陸奥海溝地震が起きたのと同じ年、肥後国で「地震・風水の災」が発生した。また肥後では八世紀、七四四年(天平一六)にも地震がおきている。八・九世紀は「大地動乱の時代」といってよい時代であるが、肥後=熊本は、その時期にもっとも多く地震災害をうけた地方の一つであるといってよい/そして、現在、二一世紀にも二〇一一年三月一一日におきた陸奥沖海溝大地震の五年後、二〇一六年四月一四日から熊本地震が発生した。よく知られているように、九世紀と二一世紀の陸奥海溝地震はほぼ同型・同規模の大地震である。そうだとすると、九世紀に肥後で発生した地震と、二一世紀に発生した熊本地震も、その発生のメカニズムや規模の点で似たものだったのではないかという問いが生まれる」と指摘、5月16日付のブログでは「東日本大震災は「予知」されていた! 失態を断つ災害予知という概念」と題して、「そもそも、災害の相当部分は、災害の経験を、世代を越えて継承することなく忘却 してしまい、また無理・無法なことをやって自然からしっぺ返しをくうことによって生まれる。「災害は忘れたころにやってくる」というのは有名なことわざだが、地震火山列島に棲む民族として、私たちは、そろそろ歴史的な災害の経験のすべてを継承する成熟した知恵と感性をもつべきではないだろうか。「災害は忘れた頃―」ということわざを過去のエピソードにすべき時代に入っているのではないだろうか」と提起しました。「東日本大震災」から「熊本地震」までをひとつながりの「大地動乱」として位置づける視点と、これまでの歴史学が「地震学」の成果を十分取り入れてこなかったのではないかという反省から歴史をとらえなおす視点の両方を知ってこの本を読みなおした次第です。

この本には「奈良・平安の地震と天皇」というサブタイトルがついています。つまりこの本は古代の日本がどのような「地震・噴火列島」であったかをぼう大な資料を跋渉して明らかにしているだけでなく、その事実を通じて日本の古代国家における王権がどのように動揺して政争が起こり、人々の生活がどのような困難に直面し、「怨霊」や「物の怪」にとりつかれながら、時代を乗り越えていこうとしたかを描き出しているという点で「オモシロイ」のです。なにしろこういうときに使われる「古事記」や「日本書紀」「日本霊異記」などは言うに及ばず、「竹取物語」も「源氏物語」もこういった視点から引用されるのです。推理小説みたい。そして全編に展開される「雷電・地震・噴火・津波」の頻発の記録は、わたしたちに改めて日本が地震列島であることを自覚させるのに大きな説得力を持っていると同時に、この時代の民衆が「神の怒り」としてのこれらの「災害」をてこに、それを「王権も怖れる最強の霊威」として王権への抵抗軸を生み出していったという指摘に連なっていくのです。

保立さんが終章に近く、わたしと同年ですぐれた研究成果をあげながらアカデミズムに迎えられることなく、「在野」のまま2002年に逝った古代史家関口裕子さんの仕事に対し「関口の仕事は、『怨霊』や『妖言』などのおどろおどろしい史料の中に、八・九世紀の旱魃・疫病・飢饉の中で苦闘する民衆の心性を透視したものとして、現在でもかけがえのない意味を持っている」と評価したことにも、わたしは感銘を受けました。それは関口さんへのオマージュであると共に、わたしが大船渡の仮設で感じたように困難の中で「前を向いて生きよう」とする人々の姿に共感したことにもつながるような気がしたからです。

とりあえず、車中読書の感想を一言。

 

広告
カテゴリー: Uncategorized パーマリンク

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中